ザ本ブログ

読書をメインに。他、雑記などをアップしていきます。

いつでも会える / 菊田まりこ

動物モノに弱いんですよね。『盲導犬クイール』ではオープニング含め3回泣きましたし、『犬とわたしの10の約束』では、鑑賞後、3日くらいヘコみました笑。

 

ネバーエンディングストーリー』では、作品の内容よりも、馬が沼に沈んじゃうシーンが子ども心にショッキングなイメージとして刻まれました。人間と違って、泣き叫んだり感情表現が少ないからか、想像を掻き立てられるんですよね。『忠犬ハチ公』は、怖くて未だに見れません。

 

動物が死ぬ話もツラいですが、飼い主が亡くなる話も泣けます。本作では飼い主の女の子が亡くなり、それを理解できない犬が、女の子の死をどう受け止めていくのかが、テーマになっています。

 

とてもシンプルな内容なのですが、何かを失うことにどう向き合うのかは、パターンは無限であり、明確な答えはありません。数多くある答えのほんの一つですが、本作はとても優しく、救われる答えを提示してくれます。ツラい何かに向き合う時、お子さんと一緒に、その悲しみについて考えるきっかけになるのではないでしょうか。

 

何より、女の子がワンコと遊ぶページが可愛い…。この1ページだけでも購入の価値はあります。

ローマの休日(1953年) / ウィリアム・ワイラー

オススメの映画は?

と聞かれると、色々考えたあげく結局、『ローマの休日』と答えてしまう。

 

言わずと知れた名作。最高に萌えるラブコメなのに、ヘプバーンの気品とペックのダンディズムが、物語をとても大人びたものにさせています。

 

ヘプバーンが城から脱出して、馬車から顔を出すシーンが、すごく可愛かったですね。綺麗な女性でも、昔の作品だと“ファッションとかメイクが古いなぁ”と感じるのですが、ヘプバーンに限ってだけは、それがない。細身なところが、日本人向けなのかも知れませんが。当時は貧相な体型だと言われていたとも。

 

ちょっとしたアクションシーンも、やはりキュートでダンディ笑。ハラハラドキドキさせる部分も、キュンとするところも、コメディとして至高の仕上がりなのに、ラストは急に現実が立ち現れ、ちょっぴり切ない展開が待ち受けます。

 

そこがまたいいんですよねぇ。エンタメに走りすぎず、大人の事情を心得た二人が、後ろ髪曳かれながらもそれぞれの道を歩み出す。これ以上ない、最高のフィナーレだと思います。このラストがあってこそ、『ローマの休日』は、不朽の名作になったのだと、勝手に思っています。

限界集落株式会社 / 黒野伸一

村興しの話ですね。有川浩の『県庁おもてなし課』を思い出しました。あと池井戸潤下町ロケットとか。

 

この手のお仕事小説は、何もないところから(いやポテンシャルはあるけど)村や会社が活気を取り戻すということで大体予想が付くのですが、分かってるのに途中で止められない笑。

 

ポイントとなるのは、どれだけ仕事現場をリアリティを持って緻密に書けるか。本作では主人公の優はアメリカで経営を学んだエリートだけども、やや情に欠ける人物。そんな彼が、いわば外圧によって高齢者が多数の限界集落を復興させていく。

 

当初は彼の活躍譚に終始するのかと思いきや、風光明媚で人情溢れる集落で過ごすうちに、彼の中の張り詰めた何かも変化していきます。優は東京で妻子がいたが、仕事にかまけて愛想を尽かされ出ていかれた。集落では、“野に放たれても、そこで自分で国を作れる人物”とも評される彼だが、その強さ故に他者への関心が薄かった。その強さと人情が、村での出会いによってミックスされていく様が、やきもきさせるが微笑ましい。

 

村には、他にも“ワケアリ”な人物が何人もいます。仕事を失ったり、何かから逃げてきたり。地域が再生するということは、“人間の再生”を促すのですね。不景気な時代には抗えない。でも自分の周りくらいなら、それぞれの力を活かすことで変えていけるとの自信をもたらしてくれる作品と感じました。

言の葉の庭 (2013年) / 新海誠

■現代、東京。靴職人を目指す高校生のタカオは、雨に日には決まって午前の授業をサボり、新宿御苑に来ていた。そこのベンチで、チョコを肴にビールを飲む、謎めいた女性、ユキノに出会う。女性は短歌の様なものを言い残し、その場を立ち去る。

 

それからというもの、雨が降る度、二人は同じ公園の同じベンチで時を過ごした。タカオは靴のデッサンを描き、女性はビール片手に古典を読む。いつしか二人は言葉をかわすようになった。他愛もない話をする内に、少しず打ち解け、タカオは、初めて他人に自分の靴職人の夢を語った。

 

女性は、自分はうまく歩けなくなったのだと話した。確かに、社会人とおぼしき女性が、しょっちゅう公園に来ているのには、何かワケがあるのだろう。物理的に歩けなくなったわけじゃない。でもタカオは、女性が歩きたくなるような、靴を作ってあげたいと思った。そう決意したとき、梅雨が明け、二人があのベンチで時を過ごす機会は、途絶えた。■

 

君の名は。』の新海誠の作品。淡い恋をテーマとする雰囲気は、『秒速5センチメートル』に少し似てますかね。

自然描写が繊細で、梅雨の雨の表し方が多彩。水滴が微細な飛沫をあげながら、地面を打つ様は、実物すら越えてますね。美し過ぎて、ジメジメした梅雨独特の湿気はあまり感じられない。

 

始まりから、抑えた静謐な空気が、スクリーン中に漂っています。終盤で最後に二人が公園を訪れたとき、嵐が襲いかかり、それを機に互いが己の感情を吐露する場面に転換します。その激しさが、これまで抑えたトーンが、同時に抑圧を示唆していたのでは、と感じました。

 

一気に心が浄化されるような、文学的で美しい短編映画。日常に疲れた時、フッと見てみると、翌日から辺りの景色が違って見えるかも知れません。雨垂れの、繊細な描写を観る内に、こんな言葉が脳裏を過りました。“神は細部に宿る”のだと。

漁港の肉子ちゃん / 西加奈子

最初は少女趣味な内容かなーと、油断して読んでいたら、後半急加速を始め、あれよあれよと衝撃的な印象を残す展開となりました。

非常にオススメの作品です。

 

ひなびた漁港の肉屋に居候する母子。

太って不細工で、お世辞にも賢くはないが、人懐っこさとあっけらかんとした性格で周りの人を和ませる母親。美しく聡明だけれど、自分の感情に素直になれない娘。

単に少女の成長譚として、成立しそうな作品ですが、そこは西先生、かなりハードな内容をぶっこんできます。

 

ネタバレですが、性産業について。

少女の出自にに絡めた展開の中で、かなりリアルな性風俗の現場が描写されます。作中ではその善悪に触れるのではなく、そのような仕事の中でも逞しく生き抜く女性や、あるいはどうしようもなく流されて生きる女性がいることを淡々と描きます。そして望まれたものでなくても、性愛のもたらす奇跡についても。

 

女性である著者がどのような気持ちで性風俗の場面を表現しているのかは分かりません。しかしただ見たくないものを拒絶するだけでは、その中で生きる人全てを否定することになると考えているのではないでしょうか。

是非を問う前に、まずありのままを知ること。白黒の付けられないグレーの部分から、存外真実というものはたち現れてくるのかも知れません。