ザ本ブログ

読書をメインに。他、雑記などをアップしていきます。

乳と卵 / 川上未映子

芥川賞受賞作。生理とか豊胸とか、女性特有の身体感覚を主題としているので、男には中々理解がおっつかない部分があります。

 

男性は大概おっぱい好きではございますが、その目線としても目に入りやすい胸を持つ女性の気持ちは想像し難いものがあります。大きすぎても小さすぎてもコンプレックス。垂れてちゃダメ、離れてちゃダメ。トップは小さめのピンクがいいとか条件多すぎ。いい加減にしろって感じですよね笑。

 

自分の身体的欠点を無くすことに固執する母親と、それに嫌悪感を表す、小学生の娘。独身子持ちで知識やスキルなく、場末のスナックで働く母親は、注力する方向を見失っています。対して、それを客観視する娘は、違和感を覚えつつも、表す術を持たず、しゃべらないという方法で心を閉ざします。

 

ストーリーはそんな二人を傍らで眺める、女性の視点で語られます。改行、句読点少なめの、独特の文章。是非とも女性側の感想を聞いてみたいものです。

人体 ミクロの大冒険 60兆の細胞が紡ぐ人生 /  NHKスペシャル取材班

あなたは知っていますか。人体にとって最小の細胞は?最大の細胞は?最も多い細胞は?

 

答えは、精子卵子、血液です。血液が細胞だと言うことも、普通は知らないですよね。しかもその数60兆!ブルゾンちえみもビックリ。

 

このように、人体の構成要素である細胞について、我々は意外と無知です。最近になって、細胞をトレースする技術(バイオイメージング)ができたことで、かなり研究が進んでいるようです。

 

印象的な記述をいくつか。

肥満になりやすい体質は存在した。子どもが胎内にいる時に母親が飢餓状態にあると、子どもは少ないカロリーでも生存できるように産まれてくる。これをエピジェネティクスと言う。胎内から、外部の状況を伺い、それに細胞が対応する能力を獲得するのだと。

これは産まれた場所に本当に食料が不足している場合にはプラスに働くが、現代社会では成人病のリスクを高める。妊娠中に母親が過度なダイエットをした場合等に、この不都合は発生する。

 

愛情ホルモンとも言われるオキシトシンの働きも興味深い。 オキシトシンは授乳や分娩の促進の際に分泌され、またスキンシップ等でも増えるとされる。更に社会的な営みにも大きな影響があるそう。

アメリカに、平原ハタネズミと山ハタネズミという、遺伝的にはほぼ同じだが、住む環境が異なるネズミがいる。平原ハタネズミは見通しが聞く環境なので、外敵から身を守るには群れで行動する必要がある。よって一夫一妻制で、夫は浮気をせず育児にも携わる。そうしなければ外敵から子どもを守れない。

逆に山ハタネズミは夫は好き勝手に交尾し、育児も行わない。この二種のネズミを調べたところ、オキシトシンの分泌量に大きな差があったというわけだ。

 

このことから、オキシトシンは社会生活に多大に関わると考えられる。実際に自閉症の人にオキシトシンを投与したところ、以前より、人とのコミュニケーションが円滑になったとの報告もある。まだ確定的な段階ではないが、昨今分かってきた発達障害の対応等に効果が期待される。

 

まだまだ未開拓ですが、今後が楽しみな分野ですね。専門家でなく、テレビのプロデューサーが執筆しているので、私のような素人でも分かりやすい一冊でした。

いつでも会える / 菊田まりこ

動物モノに弱いんですよね。『盲導犬クイール』ではオープニング含め3回泣きましたし、『犬とわたしの10の約束』では、鑑賞後、3日くらいヘコみました笑。

 

ネバーエンディングストーリー』では、作品の内容よりも、馬が沼に沈んじゃうシーンが子ども心にショッキングなイメージとして刻まれました。人間と違って、泣き叫んだり感情表現が少ないからか、想像を掻き立てられるんですよね。『忠犬ハチ公』は、怖くて未だに見れません。

 

動物が死ぬ話もツラいですが、飼い主が亡くなる話も泣けます。本作では飼い主の女の子が亡くなり、それを理解できない犬が、女の子の死をどう受け止めていくのかが、テーマになっています。

 

とてもシンプルな内容なのですが、何かを失うことにどう向き合うのかは、パターンは無限であり、明確な答えはありません。数多くある答えのほんの一つですが、本作はとても優しく、救われる答えを提示してくれます。ツラい何かに向き合う時、お子さんと一緒に、その悲しみについて考えるきっかけになるのではないでしょうか。

 

何より、女の子がワンコと遊ぶページが可愛い…。この1ページだけでも購入の価値はあります。

ローマの休日(1953年) / ウィリアム・ワイラー

オススメの映画は?

と聞かれると、色々考えたあげく結局、『ローマの休日』と答えてしまう。

 

言わずと知れた名作。最高に萌えるラブコメなのに、ヘプバーンの気品とペックのダンディズムが、物語をとても大人びたものにさせています。

 

ヘプバーンが城から脱出して、馬車から顔を出すシーンが、すごく可愛かったですね。綺麗な女性でも、昔の作品だと“ファッションとかメイクが古いなぁ”と感じるのですが、ヘプバーンに限ってだけは、それがない。細身なところが、日本人向けなのかも知れませんが。当時は貧相な体型だと言われていたとも。

 

ちょっとしたアクションシーンも、やはりキュートでダンディ笑。ハラハラドキドキさせる部分も、キュンとするところも、コメディとして至高の仕上がりなのに、ラストは急に現実が立ち現れ、ちょっぴり切ない展開が待ち受けます。

 

そこがまたいいんですよねぇ。エンタメに走りすぎず、大人の事情を心得た二人が、後ろ髪曳かれながらもそれぞれの道を歩み出す。これ以上ない、最高のフィナーレだと思います。このラストがあってこそ、『ローマの休日』は、不朽の名作になったのだと、勝手に思っています。

限界集落株式会社 / 黒野伸一

村興しの話ですね。有川浩の『県庁おもてなし課』を思い出しました。あと池井戸潤下町ロケットとか。

 

この手のお仕事小説は、何もないところから(いやポテンシャルはあるけど)村や会社が活気を取り戻すということで大体予想が付くのですが、分かってるのに途中で止められない笑。

 

ポイントとなるのは、どれだけ仕事現場をリアリティを持って緻密に書けるか。本作では主人公の優はアメリカで経営を学んだエリートだけども、やや情に欠ける人物。そんな彼が、いわば外圧によって高齢者が多数の限界集落を復興させていく。

 

当初は彼の活躍譚に終始するのかと思いきや、風光明媚で人情溢れる集落で過ごすうちに、彼の中の張り詰めた何かも変化していきます。優は東京で妻子がいたが、仕事にかまけて愛想を尽かされ出ていかれた。集落では、“野に放たれても、そこで自分で国を作れる人物”とも評される彼だが、その強さ故に他者への関心が薄かった。その強さと人情が、村での出会いによってミックスされていく様が、やきもきさせるが微笑ましい。

 

村には、他にも“ワケアリ”な人物が何人もいます。仕事を失ったり、何かから逃げてきたり。地域が再生するということは、“人間の再生”を促すのですね。不景気な時代には抗えない。でも自分の周りくらいなら、それぞれの力を活かすことで変えていけるとの自信をもたらしてくれる作品と感じました。