17人のわたし / リチャード•ベア

 一人の精神科医が虐待などで17の人格に分かれてしまった多重人格の女性を、18年かけて治療•統合していく実話。消えるのを怖れる人格達を理解し、納得してもらおうとするやり取りが、とても温かい。彼女の自殺を何度も食い止め、最後には治療費の請求も止めて、医師と患者の枠を超えた信頼関係を結ぶ過程は、どんな甘やかな物語より愛に溢れていた。

 人格達の記憶や能力を融合していく様は、常人には想像が付かない。最初の統合の描写が圧巻だ。消える人格は周囲に星が流れ、自分の存在が薄まっていくのを感じると話した。精神の消失、即ち‘死’を生きながらにして体験する••どんな感覚なのだろう?

 もう一つの観点。人格達はそれぞれの交友関係を築いていた。多重と言っても、元は一人の人間の断片。人間としての深みには欠ける。それでも周囲に気付く者は皆無だったという。このことは、やはり人は他者の一面しか見れないことを示している。だから人に理解してもらえないのは当たり前。もし一瞬でも互いに理解しあえている、と感じたらそれは本当に奇跡なんだと思う。

 凄惨に荒らされた自分の内面世界に向き合い、これを克服しようとする彼女の強さは、どんな逆境にいる人も勇気付けるだろう。医師(著者)が最後に述べている。「彼女は途轍もない人間だ」、と。