ザ本ブログ

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サラバ  / 西 加奈子

これほどまでに自伝が書いてみたくなった物語は、初めてだ。

読者全員はそう感じるかは、分からない。なぜなら本著の上巻は主人公が幼少時代にエジプトへと転校になり、日本に帰ってくる シーンが主題なのだが、私自身も幼少時代にイギリスに数年いたことがあるからだ。
(ちなみに作者は、幼少期にテヘランに滞在していたことがあり、本作品は自伝的要素もあるとされる)


言葉が通じないながらも、現地の子どもと親友と言うべき間柄を築いてく過程は、自分の幼少期の記憶を強力に呼び起こされる思いだった。とにかく、子どもの言葉にならない感情を描写する力が抜群。子どもが、そのまま大人の語彙力と表現力を持って紡いでいるかのような表現。子どもの自分が、目の前に立ち現れているかのように、錯覚してしまいそうだった。

幼少時に、自分より少し行動力があって大人びた親友に抱く万能感のようなものは、共通の経験なんですかね。
読んでいて、本当に懐かしく気恥ずかしかった笑。

全く違う文化に、子どもながらの柔軟さと臆病さで溶け込んでいく様も、微笑ましい。そして、日本に帰る時は元いた場所とはいえ、小学校高学年。完全な子どもとして、回帰するのは微妙な立ち回りが必要で、そこで姉弟の明暗が分かれてしまう様もリアル。
自分は小学校3年生で帰国した際には、日本の小学生はませているなと感じた。
ちなみに、主人公のコミュニケーション能力、ってかスペック全般は僕よりはるかに高いですね笑。

中巻から下巻にかけて、弟より全般に劣る姉の異常性が浮き彫りになり、存在感が増していく。 実は、自分は物語を読み終わった今でも、この姉の存在というか、メッセージ性とでもいうのか、がとにかくよく分からなかったです。
要領よく生きていく弟に対抗する存在として登場しているのかも知れないけど、おそらくは最後に主人公である弟に用意したカウンターも、イマイチ個人的にはクリーンヒットしなかったかなぁ、という印象です。

それぞれにエピソードはとても魅力的だけども、それがまとまっていて、何か共通するものが根幹に流れているかは、自分としては不明。まあ、自伝的作りなら、それも致し方なしか。

自分は、幼少期を追体験しているかのような上巻が、もっともインパクトがありました。