ザ本ブログ

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先生の魅力がハンパない。全ての絵を書く人へ。 「かくかくしかじか」 / 東村アキコ

東村あきこさんのマンガを初めて読みました。

本作は自伝で、出てくる人物は多少名前を変えてはいるものの、実在の人物のようです。

 

舞台は宮崎だったり、金沢だったり東京だったり。宮崎県の田舎に住む作者はマンガ家になりたいと妄想するものの、そのための行動は一切せずに普通の高校生活を送っていた。とりあえず美大に行った方がいいかもと考え始めたころ、友人に誘われ、海に面した更に田舎町の怪しげなアトリエに、絵の勉強に通うことになった。が、そこは月謝5,000円と破格の安さではあったが、竹刀を持ったおっさんが高圧的は雰囲気で生徒を指導する異様な空間だった。このおっさんこそが作者の人生を変えた恩師であり、本作はこの先生を作者を巡るハートフル?(笑)な実話である。

 

ざっとこんな感じです。

基本的によく書き込まれたバトルものとかサスペンス的な作品を好む自分としては、割りと地味なテーマな本作ですが、続きが気になって一気に読みきってしまいました。サブキャラの魅力や、作者の恋愛やマンガ家へ至る道も興味深くはありますが、この作品は画家の先生の魅力が全てです。

 

先生はカッコいいというか、カワイイというか。絵の世界に身を置いて、それなりに有名ではあるものの、組織的なものには一切入らない変わり者、異端児だったようです。本作での描かれ方を見ていると、ポリシーというよりかは、全く興味ないんでしょうね。もしかしたら知らないのかも知れない(笑)。

 

自分の産まれた土地で絵を描く。目の前にあるものをただ描く。それだけ。金儲けも一切興味なく、自分の住む周辺の人に絵を教える。ひたすらにただ描けと教える。絵を書いて欲しいから、美大に受かるように一生懸命教える。

庭になった果物を食べ、市場の新鮮な魚を手早くさばいてシンプルに食す生活。こんなにブレずにシンプルに何かを追求している人間がいるとは。生活の全てがホンモノで、都会なぞ知らなくても、誰より濃密な時間を過ごしている。

 

対照的にぶれぶれで自堕落な作者。マンガ家として成功はしているものの、その過程や生活っぷりは、とても共感を覚えます。恩師と向きあえなかったことを自嘲していますが、恩知らずなことをしてしまうのって、誰にも経験あることですよね。作品の中でそれをつまびらかにするのは、とても恥ずかしいし、勇気のあることだと思います。

 

その赤裸々で等身大な描き方が、すごく感情移入してしまうんでしょうね。先生ばかり描いていたら、異端児の英雄録みたいになってしまうので。対比が、そのコントラストが読者は我が身のように思えてしまい、没入させてくれる。手の届かない魅力的な人物に憧れを抱く作者に共感できる。

 

締め括りまで、完璧な作品だと思います。

男女、年代関係なくおすすめの一作です。