ザ本ブログ

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アメリカのパイを買って帰ろう / 駒沢 敏器

やっぱりこの人の物事の捉え方とか、文章が好きだ。駒澤俊器さん。
謎の変死を遂げちゃってるんですけどね。まだ若いのに惜しい人を亡くしたもんだ。
さて本書は、沖縄を様々な角度から切り取っている。
沖縄を語るって、大方どんな感じになっちゃいますかね。尚巴志とか琉球王国から歴史的に語るとか。第二次世界大戦沖縄戦の話とか。後は、食べ物美味しいとか、海が綺麗とかの観光面とか。 


それも沖縄の一面ではあるのですが、現代に繋がる沖縄の歩みや、それが沖縄の人からどう見えていたかなんて、ほとんど考えたことがなかったなと。本州だって東京と地方ではかなり異なる部分があると思うけど、沖縄はこれまた特殊ですからね。


ルポタージュである本書の表題作は、「アメリカのパイを買って帰ろう」。

他のタイトルもすごくオシャレなんですよね。
「君は小さいからショーンと呼ばれたんだよ」とか。

 

様々な事物から沖縄を切り取るが、本書の大筋は“戦後沖縄に、アメリカが与えた影響”だろうか。
表題作では、アメリカが沖縄に持ち込んだ、甘くてシンプルなアップルパイを取り上げている。 
名産とか故郷の味とは不思議なもので、沖縄の味と言えばゴーヤやもずくもそうだが、スパムを想起する人も多いのではないだろうか。
しかし周知の通り、スパムは戦後のアメリカ軍が持ち込んだ軍事用の糧食みたいなもので、沖縄古来の伝統料理とは言い難い。


しかし、子どもの時にスパムに親しんだ世代が孫を持つまでに至る現在、スパムは伝統とは言えないまでも、郷土料理に近い位置づけにあるのではないか。
どこからどこまでが伝統なのか、何が郷土料理なのか明確な定義はない。


スパムやアメリカの家庭で親しまれるアップルパイなどの食べ物が地元に根付いていることからも、国と国との間で翻弄されてきた沖縄の歴史が垣間見える。
しかしそれはネガティブな面だけではなく、沖縄の人がアメリカ人と通じ合い、彼らの文化をたくましく吸収し、融合させてきた歴史でもある。

 

そうしたことが、建築様式、キリスト教の境界、ラジオ放送など、種々の事象を取り上げ、丁寧に取材がなされている。
明治・大正以前はもちろんだが、昭和の歴史も今ほどデジタル化されていなかった時代を背景を考えると、今記録しなければ風化してしまう事柄はたくさんあるだろう。
本書は確実に、時間に埋もれてしまったであろう沖縄の文化と歴史を、本という形で留めた価値ある一冊だと思う。