ザ本ブログ

読書をメインに。他、雑記などをアップしていきます。

想像ラジオ / いとうせいこう

何気ない日常は中々描かれない。何気ない死はもっとだ。そして‘何気ない’とは、‘かけがえがない’ということ。

 3.11は風化しつつある。或いは原発などのトピックに集約されつつある。〈死者を抱き締める〉とは前向きな思考ではないかも知れない。ただ前を向くということは、忘れ去ることと必ずしも同義ではないだろう。

 私たちは背負うこと、背負わせることに無自覚だ。貧困を、リスクを他者に押し付け今を享受する。失われた人々に思いを馳せることもなく。

 〈死者と生者が抱き締めあう〉ことができなければ、生者と生者が手を取り合って前に進む日も訪れないのかもしれない。

  

 

乳と卵 / 川上未映子

芥川賞受賞作。生理とか豊胸とか、女性特有の身体感覚を主題としているので、男には中々理解がおっつかない部分があります。

 

男性は大概おっぱい好きではございますが、その目線としても目に入りやすい胸を持つ女性の気持ちは想像し難いものがあります。大きすぎても小さすぎてもコンプレックス。垂れてちゃダメ、離れてちゃダメ。トップは小さめのピンクがいいとか条件多すぎ。いい加減にしろって感じですよね笑。

 

自分の身体的欠点を無くすことに固執する母親と、それに嫌悪感を表す、小学生の娘。独身子持ちで知識やスキルなく、場末のスナックで働く母親は、注力する方向を見失っています。対して、それを客観視する娘は、違和感を覚えつつも、表す術を持たず、しゃべらないという方法で心を閉ざします。

 

ストーリーはそんな二人を傍らで眺める、女性の視点で語られます。改行、句読点少なめの、独特の文章。是非とも女性側の感想を聞いてみたいものです。

限界集落株式会社 / 黒野伸一

村興しの話ですね。有川浩の『県庁おもてなし課』を思い出しました。あと池井戸潤下町ロケットとか。

 

この手のお仕事小説は、何もないところから(いやポテンシャルはあるけど)村や会社が活気を取り戻すということで大体予想が付くのですが、分かってるのに途中で止められない笑。

 

ポイントとなるのは、どれだけ仕事現場をリアリティを持って緻密に書けるか。本作では主人公の優はアメリカで経営を学んだエリートだけども、やや情に欠ける人物。そんな彼が、いわば外圧によって高齢者が多数の限界集落を復興させていく。

 

当初は彼の活躍譚に終始するのかと思いきや、風光明媚で人情溢れる集落で過ごすうちに、彼の中の張り詰めた何かも変化していきます。優は東京で妻子がいたが、仕事にかまけて愛想を尽かされ出ていかれた。集落では、“野に放たれても、そこで自分で国を作れる人物”とも評される彼だが、その強さ故に他者への関心が薄かった。その強さと人情が、村での出会いによってミックスされていく様が、やきもきさせるが微笑ましい。

 

村には、他にも“ワケアリ”な人物が何人もいます。仕事を失ったり、何かから逃げてきたり。地域が再生するということは、“人間の再生”を促すのですね。不景気な時代には抗えない。でも自分の周りくらいなら、それぞれの力を活かすことで変えていけるとの自信をもたらしてくれる作品と感じました。

漁港の肉子ちゃん / 西加奈子

最初は少女趣味な内容かなーと、油断して読んでいたら、後半急加速を始め、あれよあれよと衝撃的な印象を残す展開となりました。

非常にオススメの作品です。

 

ひなびた漁港の肉屋に居候する母子。

太って不細工で、お世辞にも賢くはないが、人懐っこさとあっけらかんとした性格で周りの人を和ませる母親。美しく聡明だけれど、自分の感情に素直になれない娘。

単に少女の成長譚として、成立しそうな作品ですが、そこは西先生、かなりハードな内容をぶっこんできます。

 

ネタバレですが、性産業について。

少女の出自にに絡めた展開の中で、かなりリアルな性風俗の現場が描写されます。作中ではその善悪に触れるのではなく、そのような仕事の中でも逞しく生き抜く女性や、あるいはどうしようもなく流されて生きる女性がいることを淡々と描きます。そして望まれたものでなくても、性愛のもたらす奇跡についても。

 

女性である著者がどのような気持ちで性風俗の場面を表現しているのかは分かりません。しかしただ見たくないものを拒絶するだけでは、その中で生きる人全てを否定することになると考えているのではないでしょうか。

是非を問う前に、まずありのままを知ること。白黒の付けられないグレーの部分から、存外真実というものはたち現れてくるのかも知れません。

アルケミスト~夢を旅した少年~ / パウロコエーリョ,Paulo Coelho

「星の王子様」に雰囲気似てますが、より踏み込んだ印象を受けました。大人向け?

  両著とも、'自分にとって大切なもの'を探しに行く旅ですが(砂漠を通る共通点もある)、星の王子様では旅の果てに、'大切なものは近くにあった'としますが、「アルケミスト」では'踏み出さなければ大切なものは見付けられない'とし、その課程における心構えが具体的。

  それは'心の声を聴く'ことと、'予兆を見逃さない'こと。様々なしがらみから距離をおき、自分の本当にしたいことを感じるのって結構大変じゃないですか?そしてチャンスを見逃さないようアンテナを張り続けることも。

  この二つの言葉は金言です。常に心に留めておきたいものです。