ザ本ブログ

読書をメインに。他、雑記などをアップしていきます。

アキラとあきら / 池井戸 潤

 『半沢直樹』、『下町ロケット』などで言わずと知れた池井戸潤のお仕事小説。こちらも半沢同様、銀行目線で語りつつ、主人公の生い立ちから、会社経営の要素を盛り込んだ内容です。

 

 経済的に恵まれた暎(アキラ)と、父親の会社の倒産で幼い内に、人生の辛酸を舐めた彬(アキラ)の人生が交錯します。彬の幼少期の倒産体験は身につまされるものがあります。自分の小学校のクラスにも、家庭の事情で急遽転校する子がいたので、当時は良く分からなかったけども、あの時どんな思いだったのか、今はどうしているのか、大人になって今更思いだしてしまいました。

 

 貧しいながらも、子どもらしい健やかさと、色んな人の手助けを得ながら成長していく彬の半生が胸熱でしたね。後半は著者お得意の、銀行業務と二人のアキラの生い立ちを絡めた、緻密な内容が展開されます。個人的には、二人の子ども時代の描写の方が、文学的でやるせなくて好きですね。業界の話は、どうしても込み入ってしまうので。

 

でも続きが気になって、あっという間に読了しました。池井戸作品の中でも、おすすめです。

AX /  伊坂幸太郎

 今まで伊坂作品のイメージとしては、読んでいる時は続きが気になってサクサク読んでしまうが、終わった後には何も残っていないという感想。完全にエンタメ志向なんですね。

 

 今回は友人のオススメされて読んでみたんですが、何と親子2代に渡る構成になっており、父と息子のやり取りや思い出に、鼻の奥が熱くなるものあり。伊坂先生も、年を経て作風が変わったのかなと思いました。

 

 しかし、少し時間を経てみると、どうも心に残るものがない気がする・・・。これは何かと考えてみると、文体が淡々としてシンプルなのは、作風だからいいとして、たぶん登場人物たちが、舞台装置に過ぎないからなんだろうと。

 

 構成はパズルのピースのようにバッチリ上手くはまり、その妙手には舌を巻かざるを得ないんですが、それが故に不確定要素や熱がないように感ぜられるのか。

 

 よく漫画だと、登場人物が勝手に動き出すとか聞きますが、完璧に構成されたシナリオにはそんなものは必要ないんでしょうね。自分のようにいい加減な人間は、少しばかり論理破綻し、ストーリーを脱線してても、随所で琴線に触れるものを好むのかも知れない。

 

 結論として、彼の作品は、現代ではそこそこ売れるが、多分後世には残らない?もちろん、それは良い悪いの話ではないし、本人にしてみれば大きなお世話といったところでしょうな。

想像ラジオ / いとうせいこう

何気ない日常は中々描かれない。何気ない死はもっとだ。そして‘何気ない’とは、‘かけがえがない’ということ。

 3.11は風化しつつある。或いは原発などのトピックに集約されつつある。〈死者を抱き締める〉とは前向きな思考ではないかも知れない。ただ前を向くということは、忘れ去ることと必ずしも同義ではないだろう。

 私たちは背負うこと、背負わせることに無自覚だ。貧困を、リスクを他者に押し付け今を享受する。失われた人々に思いを馳せることもなく。

 〈死者と生者が抱き締めあう〉ことができなければ、生者と生者が手を取り合って前に進む日も訪れないのかもしれない。

  

 

乳と卵 / 川上未映子

芥川賞受賞作。生理とか豊胸とか、女性特有の身体感覚を主題としているので、男には中々理解がおっつかない部分があります。

 

男性は大概おっぱい好きではございますが、その目線としても目に入りやすい胸を持つ女性の気持ちは想像し難いものがあります。大きすぎても小さすぎてもコンプレックス。垂れてちゃダメ、離れてちゃダメ。トップは小さめのピンクがいいとか条件多すぎ。いい加減にしろって感じですよね笑。

 

自分の身体的欠点を無くすことに固執する母親と、それに嫌悪感を表す、小学生の娘。独身子持ちで知識やスキルなく、場末のスナックで働く母親は、注力する方向を見失っています。対して、それを客観視する娘は、違和感を覚えつつも、表す術を持たず、しゃべらないという方法で心を閉ざします。

 

ストーリーはそんな二人を傍らで眺める、女性の視点で語られます。改行、句読点少なめの、独特の文章。是非とも女性側の感想を聞いてみたいものです。

限界集落株式会社 / 黒野伸一

村興しの話ですね。有川浩の『県庁おもてなし課』を思い出しました。あと池井戸潤下町ロケットとか。

 

この手のお仕事小説は、何もないところから(いやポテンシャルはあるけど)村や会社が活気を取り戻すということで大体予想が付くのですが、分かってるのに途中で止められない笑。

 

ポイントとなるのは、どれだけ仕事現場をリアリティを持って緻密に書けるか。本作では主人公の優はアメリカで経営を学んだエリートだけども、やや情に欠ける人物。そんな彼が、いわば外圧によって高齢者が多数の限界集落を復興させていく。

 

当初は彼の活躍譚に終始するのかと思いきや、風光明媚で人情溢れる集落で過ごすうちに、彼の中の張り詰めた何かも変化していきます。優は東京で妻子がいたが、仕事にかまけて愛想を尽かされ出ていかれた。集落では、“野に放たれても、そこで自分で国を作れる人物”とも評される彼だが、その強さ故に他者への関心が薄かった。その強さと人情が、村での出会いによってミックスされていく様が、やきもきさせるが微笑ましい。

 

村には、他にも“ワケアリ”な人物が何人もいます。仕事を失ったり、何かから逃げてきたり。地域が再生するということは、“人間の再生”を促すのですね。不景気な時代には抗えない。でも自分の周りくらいなら、それぞれの力を活かすことで変えていけるとの自信をもたらしてくれる作品と感じました。