ザ本ブログ

読書をメインに。他、雑記などをアップしていきます。

漁港の肉子ちゃん / 西加奈子

最初は少女趣味な内容かなーと、油断して読んでいたら、後半急加速を始め、あれよあれよと衝撃的な印象を残す展開となりました。

非常にオススメの作品です。

 

ひなびた漁港の肉屋に居候する母子。

太って不細工で、お世辞にも賢くはないが、人懐っこさとあっけらかんとした性格で周りの人を和ませる母親。美しく聡明だけれど、自分の感情に素直になれない娘。

単に少女の成長譚として、成立しそうな作品ですが、そこは西先生、かなりハードな内容をぶっこんできます。

 

ネタバレですが、性産業について。

少女の出自にに絡めた展開の中で、かなりリアルな性風俗の現場が描写されます。作中ではその善悪に触れるのではなく、そのような仕事の中でも逞しく生き抜く女性や、あるいはどうしようもなく流されて生きる女性がいることを淡々と描きます。そして望まれたものでなくても、性愛のもたらす奇跡についても。

 

女性である著者がどのような気持ちで性風俗の場面を表現しているのかは分かりません。しかしただ見たくないものを拒絶するだけでは、その中で生きる人全てを否定することになると考えているのではないでしょうか。

是非を問う前に、まずありのままを知ること。白黒の付けられないグレーの部分から、存外真実というものはたち現れてくるのかも知れません。

アルケミスト~夢を旅した少年~ / パウロコエーリョ,Paulo Coelho

「星の王子様」に雰囲気似てますが、より踏み込んだ印象を受けました。大人向け?

  両著とも、'自分にとって大切なもの'を探しに行く旅ですが(砂漠を通る共通点もある)、星の王子様では旅の果てに、'大切なものは近くにあった'としますが、「アルケミスト」では'踏み出さなければ大切なものは見付けられない'とし、その課程における心構えが具体的。

  それは'心の声を聴く'ことと、'予兆を見逃さない'こと。様々なしがらみから距離をおき、自分の本当にしたいことを感じるのって結構大変じゃないですか?そしてチャンスを見逃さないようアンテナを張り続けることも。

  この二つの言葉は金言です。常に心に留めておきたいものです。

ことり / 小川 洋子

最近季節を感じていますか?気温だけじゃなくて、道端の草花や生き物の移ろいを通して。通勤の足を、ちょっとだけ止めてみよう。

 

誰にでも、小さなものに目を奪われる時期や瞬間って、あると思うんです。

 

小さな頃に虫を観察したり、道端の花や鳥にふと気付いたり。 

 

ただいつしか小さなものは目に入らなくなり、自分の人生に関係のないものとして切り捨てられていく気がします。

 

主人公の男性は、幼少の頃より小鳥に心奪われ、小鳥と時折触れ合うだけの、慎ましい人生を送っていきます。

とある洋館の管理人を生業とし、障がいを持つ弟の世話をし、古びた家で生活を営む。

その生涯に奇跡らしい奇跡は一つも起こりません。そして誰に看取られることもなく、古びた家で亡くなっているのを死後しばらくして見付けられます。

 

誰に勝たなくてもいい、ささやかでも小さな幸せを噛み締めていけばいいんだ。と、言うようなありふれたメッセージが込められているとは思いません。

 

作中の男性のように、ただただ小さなものに目を向けていく。そんな不思議な読後感のある文章です。 

余命10年 / 小坂 流加 【2018/3/7追記】

この本の著者は、もうこの世にいません。あなたは余命を宣告されたら、何を考え、どのような行動を取ろうと思いますか?
 
病気をテーマにした作品は数多くあります。
 
しかし、余命10年を宣告されたのが二十歳の女性で、しかも当の著者本人が本の刊行を待つことなく、すでに亡くなられていることを知ると、本著への感情移入度は否応なく増します。
 
明日死ぬと知れば、今日を全力で生き抜けるかと言えば、中々そうはいきませんよね。一日でやり遂げられることなど、ほとんどないのだから(せいぜいお世話になった人への挨拶くらいでしょうか)。
 
それが残り一年だったら?十年だったら?
やはり途方に暮れると思うんですよ。
全力で駆け抜けるには長過ぎて、何かを始めるにもどこまでできるか検討もつかない。死はいきなり訪れるのではなく、緩慢に身体を蝕んでいく。
 
ましてや二十歳の女性。周囲は就職や恋愛・結婚、出産と人生のイベントを謳歌するのに、自分はよしんば始めたとしても、程なくして終わりを向かえてしまう。それが相手を伴うものならば、一層始めることを躊躇してしまう。
 
そんな葛藤の中、彼女が“始めて”しまった恋愛。
自分で変えることができないリミットを課された恋路に、彼女はどう向き合うのか。そして相手に“真実”を告げるのか。告げるならばどのように?
 
死の準備をするには若すぎる、彼女の周囲への嫉妬や苛立ちの描写がリアルです。自分の嫉妬心に対する自己嫌悪も含めて。著者がどのような病状の時に、どの部分を書いていたかを思うと、胸が痛むばかりです。
 
毎日を全力でとまでは行かないまでも、誰にとっても人生は有限で、終わりはいつ訪れるか分からないことを思い起こさせてくれる良作です。

  

 

小坂流加さんの病名について 【※2018/3/7追記】

小坂流加さんがかかった病名についてですが、作中では明らかにされていません。また、出版社などからも公表された事実もないようです。

同じ病気の方の気持ちを慮ったものかと思いましたが、今では病気のことなど調べたらすぐに分かってしまいますからね。おそらくは作品のストーリーや雰囲気を重視し、学術的な内容に言及するのを避けたのかなと思います。

ただ病気の描写から、下記リンクの医療関係者の方が、指定難病86・肺動脈性肺高血圧症(以前は原発性肺高血圧症)ではないかと指摘しています。

調べると、本当に大変な病気のようでした…。心身の苦しい状態で、このような作品を紡ぎあげたことに、作者に改めて敬服し、またご冥福をお祈りいたします。そしてこうした難病が、今後解明され治療が可能になるのを願うばかりです。

 

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