ザ本ブログ

読書をメインに。他、雑記などをアップしていきます。

夜が明ける / 西加奈子

 

 ふと思ったんですが、 『さくら』といい、『サラバ』といい、ストーリーというよりかは、人の人生をなぞっていく作品の方が、エンタメでなく、文学チックに感じるかも。

 刑事ものでも恋愛ものでもなく、 人生そのものがテーマなので、雑駁な内容になるのは否めないが、「サラバ」は作者の自伝に近い部分があったようで、感情移入がしやすかったように思える。

 

 本作品のストーリーは二人の男の半生の対比といったところか。

 

 テーマは大まかに、貧困と精神的貧困を描き出そうとしていた。 両者は区別できるものでなく、相互に影響を及ぼしあう。

 例えばアキは圧倒的な精神的な貧困からスタートした。 知的にも課題がありそうだが、神聖視する存在(マクライネンや主人公)を見出すと、それを眺めるだけで精神的充足が得られる。

 例えばクラスメイトの女子は、同じく圧倒的貧困からスタートするも、持ち前の強さとセンスで 何とか乗り切り、幸福とは言えないまでも困苦を乗り越えた人ならではの優しさを身に付け、 人並みの人生を手にする。

 例えば主人公は、不自由ない家庭に途中で味わう。 夢も持って仕事に臨むが、激務に身を削られ、やがて精神的にも貧しい人間になっていく。

 三者三様であり、貧困の種類も感じ方も、一筋ではいかないことが窺える。
ただそれを個人や社会のせいにするでもなく、起きたことを淡々と描写する。 まあ教科書や政治提言じゃないんだからね。

 

 個人的に恥ずかしかったのは、アキと主人公の居酒屋のシーン。 夢を語る若者。身に覚えがあるようなないような。しかもアキは真に受け主人公を超絶尊敬しちゃってるし。まあ叶わなかった夢を単に諦めたり、折り合いを付けたり、軌道修正したりと、自由度が高 いのが人生のだいご味なんだけど。 でも貧困は選択肢を狭め、心も自由度を失うだろう。 貧しさが人に及ぼす影響は根深い。

 一つの結論としては、「人に助けを求めるべき」って言いたかったのだろうか。後輩に言わせたあのセリフ。少し唐突だけども、それで助かることがあるのか。いや、案外往々にしてあるのかも。

 

 それなりの家庭で、現在もそれなりにやれている自分には、少し響く部分が少なかった ように思われる。しばらく間をおいて、忘れたころにまた読んでみたい。